第4話

 …気絶してから、私はベッドに移されていた。
 何と1時間30分ものあいだ目を覚ますことなく寝ていたらしい。
 汚してしまったズボンと下着は、私が寝ている間にちゃんと洗濯して乾かしてくれていた。てことは、アソコも見られちゃったってこと?
 うわ、恥ずかし…。
 目が覚めたあとも、身体がなぜか熱く、股間は震動の余韻でうずき続けている。
 すぐに立ち上がろうとするが、膝がガクガクし、身体に力が入らない。
 しかしぼんやりとした頭で、私は自分が失敗してしまったのだとあらためて認識した。
 あぁどうしよう返済…。

 「結論から言うと、勤務時間は16分12秒。勤務の途中放棄により、賃金のお支払いは致しかねます。残念でしたね…」

 黒服のお兄ちゃん(細身だけどガッシリしている。とてもカタギには見えない)がまるっきり棒読みで無感情に言い放った。
 まったくだ。あのとき欲をかかずに16分だったらギリギリ耐えれてたのに。
 ラクして大金が入るバイトなんてないってことか。
 …ん?待てよ。

「では、今日のお仕事はこれで終わりです。どうか速やかにお引き取りを…」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「残念ですが今日の業務は終了したのです。どうか…」
「ちょっと待ってったら!」
「…お譲さんもくどいですね」
「私、今日どうしても10万円必要なの」
「それは私どもの関知するところではございません」
「…ねぇ、この手のお仕事、もうないの?」
「…残念ですが、この業務はおひとり様1度限りとなってございます。二度目はございません」
「何でよ。どうしてそんな決まりがあるの?」
「経験者だと心の準備をいろいろとされますゆえ、それでは「被験体」としてサンプルの用を為さないとの考えからです」
「ねぇお願いだからお仕事紹介してよ。私何だってやるから。何なら脱いだっていいよ」
「残念です。それをさきほどご決断されていれば、もっと少ない時間で目的の賃金を手に入れられていたというのに…」
「あんなに辛いと分かっていたら、誰だってそうするわよ!!」
「先の見えないのが人生というもの。人生とは常に勝負。貴女は己自身の見通しの甘さに負けたのでございます」

 言ってることは至極もっともだけど、人の足元を見て拷問してるだけじゃないか。
 悪いけどアンタの言ってること、全然納得いかないよ。

「そういうことでございますので、今日はどうかお引き取りを…」

 返済のことを考えたら、絶対に引き下がるわけにはいかない。
 ちょっと卑怯くさいけど、私はここで切り札を出すことにした。

「待ってよ!こっちにも言い分があるわ」
「何でしょうか?」
「最初にスカウトの方に聞いた話では『脱がなくていい』って言ってましたよね?それなのに私は寝ている間にズボンから下着まで脱がされて洗濯されていたんですけど、これは約束違反じゃないのかしら?」
「…なるほど考えましたな。ですが労働条件契約書にいま一度お目通し頂きたい」
「…」
「どこにそんな項目が書いてありますか?」
「うわぁ汚い、サイテー!!」
「ビジネスとはそういうものでございます。どうやらチェックメイトでございますな」

「待ちたまえ」
 扉を開け、高級そうなスーツに身を包んだ少し身なりの良さそうな男性が入ってきた。
 香水の匂いがプンプンする。

「は、はい!」
 それまで私に応対していた黒服が背筋を伸ばして立ち、一礼する。

「話は聞かせてもらった。確かに契約書に書いてはいないが、口頭とは言えそのような約束があったのであれば、彼女の言っていることにも理はあると言える」
「そ、それは…」
「契約書に書いていないから約束は反故。ビジネスとしてはそれで正解だ。しかし学生さんに対して用いるにはいささかスマートさに欠けるやり方だと思うのだが、どうだろう?」

 そうだそうだ。
「し、しかしですね…」
「それにだ」
 偉い人は小声で黒服の兄ちゃんに耳打ちした。

(この学生さんの映像を見て、『博士』がたいそう興味を抱かれたのだよ。
 彼女こそ探し求めていた、またとない「被験体候補」だとな)

 !?
 ヒソヒソ言ったって聞こえてるよそれ、それともわざと聞こえるように言ったの?
 だいたい何なのよさっきからその「被験体」って、人を実験動物みたいに。

「お嬢さん」
 偉い人はもう下っ端のお兄ちゃんは無視して、私に向かって語りかけた。

「報酬を差し上げることはできない。これは当初の約束通りだ…だが、融資をして差し上げることならできる」
「…え?」
「これが先ほどキミより指摘があった弊社の約束違反に対するギリギリの譲歩だ」
「…ありがたいお話しですけれども、金利はどうなります?」

 そこが気になるところだ。トイチとか言い出すんじゃないだろうな。
 だいたい女の子をこんな目に合わせて撮影するような団体がカタギなはずはない。

「そのことだが、金利を取るつもりはない」
 !?
 何だそりゃ?
 そんな融資聞いたことないぞ?

「金利を取るつもりはないが、正確に10日間以内に返済して頂きたい。もし返せなかったときは、その分当社で働いて返してもらうよ」
 !!
 キター。
 来た、来やがったよ。
 またコイツら、私をあんな拷問にかけようっていうんだ。

「とは言え、こちらも無理強いはせんよ」
 偉い人は、文字通り私の足元を見るように、低い声で言った。

「でも、いまのキミにはこれが必要なんじゃないのかねぇ?」
 そう言って、偉い人はふところから10万円を出し、目の前でトランプのごとく広げて見せた。
 くぅ〜イヤミな奴!!

「あぁそれと、今度我々が紹介する仕事はさっきのあんなゲームじみた仕事と違って、働いたら働いた時間分だけ、間違いなく賃金が支払われる。気絶したとかの理由で給料が減額されることはない。それは保障しよう。1日10万円も夢ではないし、望むならば一度きりと言わず何度働いてもらっても構わない。どうだ、いい話だろう?」

 うーん…時間分だけ間違いなくお金になるのは確かにさっきと違う。
 1日10万円というのも割がいい。
 何度働いてもいいというのも魅力だ。
 だけど、その分、さっきのアレより内容ハードなんじゃないだろうか?
 そんなのに耐えられるのか私。
 何だか今から冷や汗が垂れてくる。怖い。

「働くのが嫌なら10日間以内に返済すればいい、それだけの話だ。もっともお譲さんにそれが出来れば、の話だがね」

 まったくどこまでも人の足元を見てくれるよ。
 でも悔しいけどそれが事実だ。自慢じゃないがクレジットカードの返済は滞り、それで学生ローンに手を出しまくっていまの借金を築き上げてきた。10万円だって今月返済しても、どうせ来月にはまた同額くらいの返済があるはずなのだから。これ以上高金利の借金を重ねたら、私はもはや社会復帰出来なくなってしまう。

「お仕事の内容って何ですか?」
「それは今は言えんな。やると決めたときに話すとしよう」
「ズルいです」
「そう思ったら10万円の融資はあきらめてこのまま帰られるが良かろう」

 …鬼!
 私に初めから選択肢なんかないの分かってて揺さぶりをかけてるんだ。
 会社員って何でこんなに汚い人間ばかりなんだろう。
 あぁ、大人になんかなりたくない。

 

 結局、私は10万円を受け取り、今月の支払い分を何とか返済した。
 しかし、例の会社「硝子映像工房」へと負債がスライドしただけである。

 たぶん私は10日後、またあそこの「仕事」をすることになるんだろう。
 話の流れから言って、おそらく仕事内容は例の「被験体候補」とかいうやつだ。
 それがどれだけハードなものかは、さっきのやつで十分過ぎるほど分かっている。
 正直、逃げ出したい。
 が、お金を借りる際に免許証のコピーを取られてしまっているし、実家の住所も押さえられてしまっている。
 やっぱりプロだよなぁその辺は。抜け目がない。

 逃げたいけど逃げられないのなら、行くしかないと決めた。
 アダルト風に言うなら、逝くしかない。
 シモネタなシャレ言ってる場合か、と自分にツッコミ。

 それに…。

 言いたくないけど、あの震動を股間に与え続けられた感覚が忘れられなくて…。
 喉元過ぎれば、ではないけれども。
 心のどこかで、またあんなのを、私は期待していたのだと思う。
(了)

※続きがあるような終わり方ですが、続きを書くかは未定です。
 リクエストが多ければやる気になる…かも?

 

*** 著者後書き ***

・本文章は当方の運営するサイト(性感快楽駆け込み寺)に対し多大なるアドバイスを授けて下さりました親愛なる真理子様の運営されるサイト「ましゅまろくらぶ」に捧げるものであります。

・男なら誰もが思う「こんなAVを撮ってみたい」の文面化です。ちなみにAV出演女性に対する賃金の相場がこれで正しいかどうかは分かりませんが、このように事前に条件をすべて明確化しておけば、現場でよく発生する「こんな撮影あるなんて聞いてません!」問題なんて発生しないのになぁと思います。

・文中の女性のリアクションについては、当方が実際にこれまで電マ等を女性に当ててきた経験則を唯一の参考材料として書いています。それゆえ文章は稚拙ですが、リアリティにはそれなりの自信があります。市販されているAVは視聴者が見たい絵を意図的に撮っているだけなので、正直まったく当てになりません。

 

 

 

   

『性感反応被験体File No.01-a 女子大生(19)』

著者 渡硝子の性感反応駆け込み寺 渡硝子

女性の性感・快楽に関する悩み「どうしてイケないんだろう」「私って不感症では」等に対し、渡硝子の経験に基づくアドバイスを行なうページです。

 

 

 

 

 

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